相続・親族関係
よくある相談の例
- 親が亡くなったが,多くの借入れをしていた。この借金は相続人が返さないといけないのか。
- 祖母が亡くなったが,その子にあたる自分の父は既に亡くなっている。自分は祖母の相続人になるのか。
- 兄弟間で感情的に対立してしまって遺産分割の話合いが上手くできない。
- 今後のことを考えて遺言を残しておきたい。
- 離婚にあたって,相手の連れ子との養子縁組を解消したい。
- 母が認知症となってしまったので代わりに財産を管理できるようにしたい。
Q&A
亡くなった父に多額の借金があったが,子である自分が支払わなければならないか。
プラスの財産だけでなく,借金も相続の対象になりますので,被相続人(亡くなった方)に借金がある場合には,法定相続人(配偶者,子など,民法で定められている相続人)が,法定相続分(民法で定められている,各相続人が被相続人の権利義務を承継する割合)に従って,相続します。遺産分割で借金を分割しても,債権者が同意していない限り,それを債権者に主張することはできません。
しかし,被相続人の財産より借金の方が多額であるような場合には,家庭裁判所に,相続放棄の申述をすることができます。
相続放棄の申述が受理されると,申述人は最初から相続人ではなかったことになりますので,被相続人の借金を相続により負担することはなくなります(ただしプラスの財産も承継できません)。
相続放棄の申述は,自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内にしなければなりませんが,被相続人の財産や借金がどれくらいあるかわからない場合には,家庭裁判所において,相続放棄の申述をする期間を延長するよう請求することもできます。
また,相続人が相続によって得た財産の限度で被相続人の債務の負担を受け継ぐ限定承認という方法があります。ただし,限定承認の申述は,自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内に,相続人全員が共同して行わなければなりません。
兄が亡くなったが,弟である自分は相続人になるのか。
誰が相続人になるかは,民法で決まっています。まず,お兄さんに配偶者がいる場合には,配偶者は常に相続人になります。そのほか以下の血族がいる場合には,それらの血族が次の順番で相続人になり,配偶者も同じ順位となります。
【第1順位】
子(養子も含みます。お兄さんの子どもが亡くなっているが孫などの直系卑属がいる場合は,お兄さんの直系卑属が相続人になります。)
【第2順位】
両親(お兄さんの両親が亡くなっているが祖父母などの直系尊属がいる場合は,お兄さんの直系尊属が相続人になります。)
【第3順位】
兄弟姉妹つまり,被相続人(亡くなった方)に子どもなどの直系卑属も両親などの直系尊属もいない場合には,被相続人の弟が相続人になります。
遺言を作りたいがどのようにすればよいか。
遺言は,遺言者の真意を確実に実現させると同時に,偽造や変造を防止するため,民法により,厳格な方式が定められています。この方式によらなければ無効となります。民法が定める遺言の方式は,死が差し迫っているなどの特別な事情がない限り,(1)自筆証書,(2)公正証書,(3)秘密証書の3つであり,これらの方式に従わないものは無効となります。
(1)自筆証書
自筆証書遺言は,遺言者が,原則的には全文,日付及び氏名を自署し(パソコン等は不可),押印して作成しなければならない遺言です。
ただし,平成31年3月13日以降は,相続財産の全部または一部の目録を添付する場合に,その目録は自書する必要がなくなりました(パソコン等で作成可)。
なお,通常の自筆証書遺言を執行する(預貯金を引き出したり,登記名義を移したりする)ためには家庭裁判所での検認が必要となります。自筆証書遺言は,費用もかからず簡単に作成することができる点や遺言の存在を秘密にすることができる点などのメリットがありますが,デメリットとして,紛失や偽造の危険があることや,有効性が問題となる危険があることが挙げられます。
もっとも,このような自筆証書遺言のデメリットを補う制度として,令和2年7月10日から,法務局による自筆証書遺言の保管制度が開始されました。
この制度を利用すると,本人がある法務局に遺言を預けると,それがデータとして各地の法務局で確認することが可能となり(確認できるのは本人または本人死亡後の相続人や受遺者等),また家庭裁判所での検認を受けることも不要となります。
(2)公正証書
公正証書遺言は,2人以上の証人の立会いのもと,遺言者が公証人に遺言の趣旨を伝え,公証人が遺言の内容を文章にまとめて作成するものです。公証人は,多年,裁判官,検察官等の法律実務に携わってきた法律の専門家で,正確な法律知識と豊富な経験を有していますので,効力が問題となる可能性は少ないし,公正証書遺言の原本は公証役場に保管されるので,紛失や偽造の危険性もありません。
(3)秘密証書
秘密証書遺言は,遺言者が署名押印して封印した遺言書を公証人及び2人以上の証人に提出し,自己の遺言書である旨及びその筆者の氏名及び住所を申述し,公証人が,その封紙上に日付及び遺言者の申述を記載した後,遺言者及び証人2人と共にその封紙に署名押印することにより作成されるものです。自筆証書遺言と同様に,遺言の執行には家庭裁判所での検認が必要となります。秘密証書遺言は,遺言書の内容を秘密にすることができますが,有効性が問題となるおそれがないとはいえません。
相続人間で遺産の分割について話がまとまらないがどうすればよいか。
被相続人(亡くなった方)が遺言書を作成していない場合,相続人同士で遺産分割協議をすることになりますが,協議がまとまらない場合には,家庭裁判所において,遺産分割の調停(調停委員を介して行う話合いの手続)を利用することができます。
話合いがまとまらず調停が不成立になった場合には,家事審判官(裁判官)が,遺産に属する物又は権利の種類及び性質,各相続人の年齢,職業,心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮して,審判をします。
亡くなった父の遺言は,長男に全財産を相続させるという内容だったが,二男の自分は何も相続できないのか。
このような場合であっても,遺留分につき請求をすることができます(遺留分侵害額請求)。
遺留分とは,相続人(ただし,被相続人の兄弟姉妹を除きます。)のために,相続に際して,法律上取得することを保障されている相続財産の一定の割合のことで,被相続人(亡くなった方)の生前の贈与又は遺贈によっても奪われることのないものです。
遺留分は, 直系尊属(被相続人の両親や祖父母)のみが相続人の場合は被相続人の財産の1/3とされており,相続人が直系尊属以外の場合は全体で被相続人の財産の1/2とされています。これを民法の法定相続分の割合に従って分配して算定します。
相続人が,相続財産にこの割合を乗じた金額を受け取れていない場合には,基本的に遺留分が侵害されている状態になりますので,遺留分を侵害する相続人や,被相続人から贈与等を受けた相手に対して,この侵害額の請求として,金銭の支払いを請求できます。
なお,この遺留分侵害額請求の制度が適用されるのは令和元年7月1日以後に発生した相続であり,令和元年6月30日以前に発生した相続には,従前の遺留分減殺請求という制度が適用されます。基本的な違いは,遺留分減殺請求では現物返還を求めるのが原則だったのに対し,遺留分侵害額請求では金銭の支払いを求めることに統一された点です。
遺留分侵害額請求は,裁判所を利用しなくてもできますが,当事者間で話合いがつかない場合には,家庭裁判所の調停手続を利用することもできます。
養子縁組とはどのようなものか。
養子縁組とは,親子関係のない者同士に,法律上の親子関係を発生させることをいいます。養子縁組には,普通養子と特別養子の二つの制度があります。
このうち多く利用されているのは,普通養子です。養子縁組は,具体的には,結婚相手の前の夫(前の妻)との間の子どもを養子にする場合などに多く利用されています。
普通養子縁組をするためには養親となる者と養子となる者の双方に養子縁組をする意思があること(養子となる者が15歳未満の場合には法定代理人の承諾が必要となります。)などの民法が定める要件を満たすことが必要です。
特別養子は,原則として6歳未満の未成年者の福祉のため特に必要があるときに,家庭裁判所の審判により,未成年者とその実親側との法律上の親族関係を消滅させ,実親子関係に準じる安定した養親子関係を成立させる縁組制度です。
未成年の子がいる女性と結婚し,その子と養子縁組をしていたが,離婚することになり,養子縁組も解消したい。
養子縁組を解消することを,「離縁」といいます。
離縁をするためには,当事者の協議で離縁する方法があります。養子が未成年の場合には,離縁後の法定代理人(今回のケースでは子の母親)との間で協議をすることになります。
養親と養子の間での協議がまとまらない場合には,家庭裁判所の調停手続を利用して調停委員を介して話合いをすることができます。
調停によっても話合いがまとまらない場合には,離縁の訴えを提起して,家庭裁判所の裁判により離縁を求めることもできます。裁判離縁は,悪意の遺棄,3年以上の生死不明,その他縁組を継続し難い重大な事由があるときのいずれかに該当することが要件となります。
成年後見とはどのような制度か。
精神上の障害(認知症,知的障害,精神障害など)がある方の中には,自分に不利益な契約を結んでしまい,悪徳商法などの被害に遭ってしまう方がいらっしゃいます。また,そのような被害には遭わなくても,自分で不動産や預貯金などの財産を管理したり,施設への入所に関する契約や遺産分割の協議をしたりすることが難しい場合があります。そこで,精神上の障害のために判断能力を欠く方を保護するために設けられた制度が成年後見制度です。
成年後見制度と同様に,精神上の障害により判断能力が十分でない方を保護するための制度として,保佐・補助があります。
保佐とは,精神上の障害によって判断能力が著しく不十分な方を保護するための手続です。家庭裁判所から選任された保佐人は,重要な財産行為について同意権や取消権を有します。また,保佐人は,当事者が申し立てた特定の法律行為について,家庭裁判所から代理権を与えられる場合もあります。
補助とは,精神上の障害によって判断能力が不十分な者方を保護するための手続です。家庭裁判所は,補助人を選任し,当事者が申し立てた特定の法律行為について,代理権若しくは同意権(取消権)のいずれか又は双方を与えることができます。
成年後見・保佐・補助のいずれを利用するかは,本人の精神上の障害の程度によって判断されます。
法定後見と任意後見の違いは何か。
成年後見制度には,法定後見制度と任意後見制度の2つがあります。
法定後見制度では,家庭裁判所から選任された成年後見人が,本人の意思を尊重し,また,本人の心身の状態や生活の状況に配慮して,本人の財産管理や契約などの法律行為を行います。食事の世話や実際の介護などは,一般に成年後見人の職務ではありません。成年後見人は,本人の親族のほか,事情に応じて,弁護士や社会福祉士等の第三者が選ばれる場合があります。そして,成年後見人は,その事務について家庭裁判所に報告して,家庭裁判所の監督を受けることになります。また,成年後見人を監督する成年後見監督人が選ばれることもあります。
任意後見制度は,本人に十分な判断能力があるうちに,将来,判断能力が不十分な状態になった場合に備えて,あらかじめ自らが選んだ任意後見人に,財産管理などに関する事務について代理権を与える契約(任意後見契約)を公証人の作成する公正証書で結んでおくというものです。
より詳しい情報については,以下のサイトへ